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2018年10月30日火曜日

Brugada症候群

概略

 筆記試験では出題されたことがありましたが、口頭試験では56-1-1が初出題です。
 10年ほど前に全科当直をしていた時に、主訴は忘れましたが20代の元気な男性が夜間外来を受診して心電図をとった時の波形がBrugadaっぽくて(少なくとも当時はそう見えた笑)、これはヤバし、と経過観察および翌朝のコンサルと目的に一泊入院させたことがあります。翌日循環器の先生に「全然ちゃうわ冷笑)」と一蹴された甘酸っぱい思い出が蘇ります。
 実際に56回で問われたものは、心電図による指摘(問題文ではその後Brugada症候群でICD植え込みしていると提示あり)と麻酔法、強いて言えば術前評価時の確認事項くらいでした。

Brugada症候群とは(ざっくり)

先天性の不整脈疾患の一つです。
海外ブランドでもありそうな感じの名前ですが、スペイン人の医師の名前です。心筋梗塞や心不全など何もない状態でいきなり心室細動を起こす可能性のある恐ろしい疾患です。ただ多くの場合は一過性に発生にとどまり失神等の症状の後回復します。
中年のアジア人に多く、男女比は9:1。
typeは3つに分かれますが、大まかにはtype1がcoved型で、type2と3はsaddle back型と覚えておきましょう。教科書を見ると細かな診断基準が載っていますが、完全に覚えているのは循環器の先生くらいだと勝手に思ってます笑。必要な時に参照できるようにしておけばいいと思います。

心電図波形

 通常の12誘導で右脚ブロック様心電図を呈します。右側胸部誘導でのcoved型またはsaddleback型ST上昇が典型的な例で色々な教科書やネットでも見ることができます。一応下手な絵を載せておきます。ST上昇の程度や波形には日内・日差変動があり、正常の時もあります。通常より1肋間上(第3肋間)でモニタリングするとST上昇が捉えやすい(3倍近く検出率アップ)とされています。
 失神などの症状の既往がある場合は循環器内科をコンサルトし、薬剤負荷試験(アジマリン、フレカイニド、プロカインアミド、ピルジカイニドなど)や、電気生理検査(EPS)を考慮します。確定診断後はICDなどの治療方針が決定されます(唯一の対処・治療方法)。無症候性の場合の対処はコンセンサスが得られていないようですが、無症候ならICDは装着せず、経過観察とすることが多いようです。
 Brugada心電図を見た場合に鑑別が必要な疾患群の中で重要なものとしては、急性心膜炎、虚血性心疾患(急性心筋梗塞、異型狭心症)、解離性大動脈瘤、肺塞栓などがありますが、こんなのあれば症状が出ているはずなのでわかると思います笑。その他高カリウム血症や高カルシウム血症も除外します(これも採血ですぐに結果は出ていると思います)。

術前確認事項

 56-1-1のように初めから診断がついていてICDまで植え込まれているのであれば話は早いのですが、知らなかった前提で話を進めましょう。
 突然死の家族歴、失神発作の有無。心エコー(器質的疾患除外)、Holter心電図(発作や日内変動)。上記のような疾患群の除外。
 ICDを植え込んでいる場合は術前に必ず最近の除細動の有無、充電残量のチェックしておきましょう。

麻酔管理

 症候性、無症候性を問わず、心室細動のリスクは念頭に置くべきです。体外除細動器はすぐに使用できるようにの準備しておきます(術野的に無理でなければ除細動パッドを貼っておきましょう)。心室細動発症前にST上昇が増大することがあり、術中は右側胸部誘導までモニターするのが望ましいです(が、術野的に厳しい時もあるでしょうねぇ)。
 副交感神経優位の状態で発作が起こりやすいため、徐脈や迷走神経反射は極力避けます。過換気でST上昇が増悪した症例もある様でこれも避けます。
 術中にST上昇を認めたり、心室性不整脈が頻発する場合にはイソプロテレノールを持続投与(0.01μg/kg/分〜)。が、私は使ったことないです。

使用を避けたほうがいい薬剤

 抗不整脈薬としては、Naチャネル遮断薬(Ia プロカインアミド、ジソピラミドなど)、Ic フレカイニド、サンリズム)、カルシウム拮抗薬、β遮断薬、ATP、などでVF誘発のリスクがあるとされ、術中の使用は避けたほうが無難。
麻酔薬としては、プロポフォール(ただし長期使用時の報告、PRISのBrugada様心電図のことか?)、ケタミンブピバカイン(高用量硬膜外持続での心電図変化の報告)、リドカイン(通常量は安全)はST上昇や心室細動を誘発するとされており、揮発性吸入麻酔薬を使用するほうが無難でしょう。
副交感神経優位状態はST上昇を誘発することがあるため、硬膜外麻酔も要注意。Vf予防にはイソプロテレノールやアトロピンが使用されます。ネオスチグミンもやめたほうがいいですね(今使用している施設は減少していると思いますが)。
 様々な薬剤が注意薬剤となっていますが、実際使用する際には教科書などの表を参照・確認しておくといいです。

治療

 発作が起きたら除細動するしかないです!

口頭試験用のまとめ

  • 問診・検査は失神既往や家族歴、ホルター、心エコー
  • 心電図を見てピンとくるように
  • ICD入ってたらショックの既往、充電残量チェック
  • 麻酔法は吸入麻酔薬で術中副交感神経優位を避ける。除細動器準備。できれば右胸部誘導モニター。
  • 発作が起これば除細動

筆記試験ではここが問われている!

  • 心電図一般についての問題の選択肢。「Brugada症候群は肢誘導でのST部分の異常が特徴的である」。右胸部誘導でのST部分の異常が典型的なので×。【44B8】
  • 臨床問題で心電図読み取りと、周術期管理について問われています。【46C1〜2】
    • 除細動用パッドを装着する→しましょう。◯
    • ドロペリドールは禁忌である→別にそんなことはない。QT延長症候群用の選択肢でしょう。×
    • 術後早期に抗凝固療法を行う。→必要ない。×
    • β遮断薬が第一選択治療薬である。→治療の第一選択は除細動。×
    • ニトログリセリンの予防的投与を行う。→必要ない。×
  • 臨床問題で心電図読み取りからの術前評価と適切な追加検査について問われています。【48C8〜9】
    • 心筋虚血を疑う→除外は必要だが疑うほどではない。×
    • 肺高血圧を疑う→そのような所見はない。×
    • 遺伝子疾患を疑う→家族性。◯
    • シャント性疾患を疑う。そのような所見はない。×
    • 特記すべき所見はない。→coved型のST上昇が見られる。×
    • 心エコー図検査→器質的疾患の除外では必要だが・・。×
    • 負荷心電図検査→×
    • 心臓カテーテル検査→×
    • 心臓電気生理学的検査→◯
    • 不要→そんなことないでしょう笑。×。
  • 臨床問題で心電図読み取りからの診断、術前管理(従兄弟の突然死あり)が問われています。【50C3〜4】
    • ペースメーカーワイヤーを挿入する→一時的ペースメーカーの適応はない。×
    • ホルター心電図検査を行う。→◯
    • 電気生理学的検査を施行する。→◯
    • 心電図を1肋間頭側で記録する。→◯
    • 埋め込み型除細動器を植え込む。→無症候性では必ずしも必要ないため、循環器内科受診などして決定する。いきなり使用するわけではないため×。
  • 臨床問題で避けたほうがよいことが問われています。【56C12】
    • 徐脈→副交感神経優位な状態でST上昇、発作の誘発の恐れがあるので◯
    • 局所浸潤麻酔→大丈夫です。×
    • セボフルラン麻酔。→大丈夫です。×
    • ニコランジル持続静注。→この場合毒にも薬にもなりませんが大丈夫です。×
    • イソプロテレノール持続静注→発作予防に使用されるので、避ける理由はありません。×
  • 循環器内科による確定診断に使用される薬剤について問われています。【56C13】
    • イソプロテレノール→予防薬剤です。×
    • ピルシカイニド→◯
    • プロプラノロール→×
    • ベラパミル→×
    • メキシレチン→×

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